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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)114号 判決 1974年5月14日

原告

インターナショナル・テレフォン・アンド・テレグラフ・コーポレーション

右代表者

シー・コーネル・レムゼン・ジュニアー

右訴訟代理人弁護士

エルマー・イー・ウェルティ

仲村昭

右訴訟復代理人弁護士

高取伸一郎

被告

特許庁長官

斎藤英雄

右指定代理人

末野徳郎

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告は、「被告が昭和四七年三月二八日、同庁昭和四五年審判第三九三九号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文第一項同旨の判決を求めた。

第二  請求原因

一、特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四二年二月一五、別紙(一)の構成からなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行規則第三条別表第一一類電気機械器具その他本類に属する商品として、商標登録出願したところ、昭和四四年一二月八日拒絶査定を受けたので、審判を請求した(昭和四五年審判第三九三九号)。特許庁は、これに対し、昭和四七年三月二八日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年五月二二日原告に送達された(出訴期間三月附加)。

二、審決理由の要点

本願商標の構成、登録出願年月日および指定商品は、前項掲記のとおりである。

これに対し、別紙(二)の構成からなり、商標法施行規則第三条別表第一一類電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)、電気材料を指定商品とする商標(以下「引用商標」という。)が昭和三八年七月一二日登録出願され、昭和四一年七月二八日登録されている(登録第七一四八七六号)。

そこで、本願商標と引用商標の類否について判断すると、本願商標を構成する「GENERAL CONTROL」の文字を全体として称呼するときは「ゼネラルコントロールズ」と冗長にすぎるものである。そして、「GENERAL」と「CONTROLS」との間には二字程の間隔があり、両文字が一体となつて一つの熟語的な意味を形成するものではなく、これを一連に称呼しなければならない格別の事情は認められない。したがつて、簡易迅速を旨とする取引の経験則に照らせば、本願商標は、単に「ゼネラル」の称呼をも生ずるものと認めるのが相当である。

これに対し、引用商標は、その構成上「ゼネラル」の称呼を生ずることが明らかである。

してみれば、本願商標と引用商標は、外観および観念の点について論ずるまでもなく、「ゼネラル」の称呼を共通にする類似の商標といわざるを得ない。また、その指定商品も互に牴触することが明らかである。

よつて、本願商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当するものであつて、登録することができない。<以下省略>

理由

一本件の特許庁における手続の経緯、本願商標の構成、指定商品、登録出願年月日、審決理由の要点が原告主張のとおりであること、引用商標の構成、指定商品、登録出願および登録年月日が審決認定のとおりであること、引用商標が「ゼネラル」の称呼を生ずること、本願商標と引用商標の指定商品が互に牴触することは、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、原告主張の審決を取消すべき事由の有無について判断する。「ゼネラル」(GENERAL)という英語は「一般的な」または「全般的な」を意味するものとしてわが国において広く知られている。原告は、この語が米国においては商品の出所を識別する力をほとんど失うほど多く使用されている旨主張するが、このような外国の事情は審決を取消すべき事由の有無とは関係がない。そして、わが国において「ゼネラル」(GENERAL)の語が商品の「多様性、広範囲性」を意味するものとして広く知られ、その結果商品の出所を識別する力を失つていると認めるに足りる証拠はない。もつとも、原告主張のとおり、商標法施行規則第三条別表の同一類中に「ゼネラル」または「GENERAL」の語を含む商標が多数登録されていることは、被告の明らかに争わないところであるが、このことから直ちに前記の事実を推認することはできない。また、「GENERAL ELECTRIC」、「GENERAL MOTORS」の商標がわが国においても周知であり、取引上は「ジー・イー」(G・E)、「ジー・エム」(G・M)と略称されていることは、被告の明らかに争わないところである。しかし、これらの商標が米国の著名な巨大企業の商標であることは当裁判所に顕著であるところ、これらの略称がわが国においてはじめて生じたものであることを認めるに足りる証拠はない。したがつて、前記の事実は「ゼネラル」(GENERAL)の語がわが国において商品の出所を識別する力を失つていると推認する資料とはならない。

一方、<証拠>によれば、「CONTR-OL」の語が「制御」または「調節」を意味する技術用語としてわが国において広く使用されていること、その複数形である「CONTROLS」が機械又は装置の動作を制御又は調節する手動又は自動の機構を意味することが認められる。そうだとすると、「CONTROLS」の語は、商品の品質、用途を示す普通名詞として一般に認識される可能性もないとはいえないから、商品の出所を識別する力が特に大きいとはいえない。

そして、本願商標を「ゼネラルコントロールズ」と一連に称呼するときは、取引の実際において冗長に過ぎるであろうことは、社会通念に照らし明らかである。原告は二語の結合からなる他の既登録商標と比較し冗長ではないと主張するが、これらの既登録商標は取引上はいずれか一語によつて略称されることがあり得るからこの比較は無意味である。

そうだとすると、本願商標を本願の指定商品に使用するときは、他の略称が生ずる特段の事情が認められない限り、取引の実際においては「コントロールズ」のほか「ゼネラル」の称呼をも生ずるものと認めるのが相当である。

三そこで、本願商標が前記の称呼のほかの略称を生ずるか否かについて判断する。<証拠>によれば、次の事実が認められる。

ゼネラル・コントロールズ社(現在の商号はI・T・T・ゼネラル・コントロールズ)は本願商標を使用して電磁弁その他の自動制御機器を製造販売し、わが国にもその製品の一部を輸出していた。同社は昭和三五年一一月サンレー冷熱株式会社との間でいわゆる総代理店契約を締結し、同社の製品をわが国において独占的に輸入し販売させることを約した。同会社はそれ以後ゼネラル・コントロールズ社の製品である電磁弁および緊急遮断弁(いずれも自動制御機器)を輸入し、わが国において本願商標を附して販売している。その販売先は、これらの商品の性質上、ボイラーおよびバーナーの製造業者、ガス製造業者等特定の業者に限られている。そして、これらの商品の取引にあたつては、本願商標は「ジー・シー」(G・C)または「ゼネコン」と略称され、「ゼネラル」と略称されたことはない。

以上の事実が認められるところ、前記の電磁弁および緊急遮断弁が本願の指定商品に属しないことは原告の自認するところである。そして、本願の指定商品である電気機械器具等の中には、これらの商品とは流通経路、販売先を著しく異にするものが含まれることが明らかである。また、前記「ジー・シー」(G・C)または「ゼネコン」という略称がゼネラル・コントロールズ社の製造販売するその他の電気機械器具等についてその商標の略称として一般需要者に周知であることを認めるに足りる証拠はない。したがつて、前認定の事実からは、本願商標を本願の指定商品に使用した場合に、取引上「ジー・シー」(G・C)または「ゼネコン」と略称され、「ゼネラル」の称呼を生じないと推認することはできない。

そうだとすると、本願商標は「ゼネラル」との称呼をも生ずるとした審決の認定は正当であるといわなければならない。

四以上のとおりであるから、本願商標は引用商標と類似する商標であることが明らかであり、指定商品が互に牴触することは前叙のとおり当事者間に争いがない。そうだとすると、本願商標を登録すれば、一般需要者の間に商品の出所の誤認混同を生じ、競業秩序が乱れ、登録商標の出所表示機能を信頼する一般需要者の利益を害することが明らかである。したがつて、本願商標の登録を拒絶することが商標法第一条に規定された同法の目的に合致することはいうまでもない。これが、同法の目的に反する旨の原告の主張は、同法の目的の誤解に基づくものであつて、到底採用することができない。

また、工業所有権の保護に関するパリ条約第六条の五A(1)は、原告主張のとおり、同一の商品については同一人に同一の商標を国際的に使用させることを目的とするものである。しかし、同条Bは、前叙のような引用商標がわが国において既に登録されている場合は、その商標権者の既得権を害しないため、これと類似する外国登録商標の登録を拒絶することができる旨を定めている。したがつて、同条Aの立法趣旨のみを援用して本願商標の登録を拒絶することは許されないとする原告の主張は、採用の限りではない。(なお、本願はパリ条約第六条の五Aに基づく出願ではなく、同条約第二条に基づく出願であることは、弁論の全趣旨により明らかである。)

したがつて、審決は特許庁がその権限を濫用したものであるという原告の主張は、採用できない。

五以上のとおり審決には原告主張の違法はない。よつて原告の請求は失当であるからこれを棄却し、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項を適用して主文のとおり判決する。

(古関敏正 瀧川叡一 宇野栄一郎)

別紙(一)

別紙(二)

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